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セキュリティ

クラウドネイティブなワークロードをセキュアに維持するための概念

1 - Podセキュリティの標準

Podに対するセキュリティの設定は通常Security Contextを使用して適用されます。Security ContextはPod単位での特権やアクセスコントロールの定義を実現します。

クラスターにおけるSecurity Contextの強制やポリシーベースの定義はPod Security Policyによって実現されてきました。 Pod Security Policy はクラスターレベルのリソースで、Pod定義のセキュリティに関する設定を制御します。

しかし、PodSecurityPolicyを拡張したり代替する、ポリシーを強制するための多くの方法が生まれてきました。 このページの意図は、推奨されるPodのセキュリティプロファイルを特定の実装から切り離して詳しく説明することです。

ポリシーの種別

まず、幅広いセキュリティの範囲をカバーできる、基礎となるポリシーの定義が必要です。 それらは強く制限をかけるものから自由度の高いものまでをカバーすべきです。

  • 特権 - 制限のかかっていないポリシーで、可能な限り幅広い権限を提供します。このポリシーは既知の特権昇格を認めます。
  • ベースライン、デフォルト - 制限は最小限にされたポリシーですが、既知の特権昇格を防止します。デフォルト(最小の指定)のPod設定を許容します。
  • 制限 - 厳しく制限されたポリシーで、Podを強化するための現在のベストプラクティスに沿っています。

ポリシー

特権

特権ポリシーは意図的に開放されていて、完全に制限がかけられていません。この種のポリシーは通常、特権ユーザーまたは信頼されたユーザーが管理する、システムまたはインフラレベルのワークロードに対して適用されることを意図しています。

特権ポリシーは制限がないことと定義されます。gatekeeperのようにデフォルトで許可される仕組みでは、特権プロファイルはポリシーを設定せず、何も制限を適用しないことにあたります。 一方で、Pod Security Policyのようにデフォルトで拒否される仕組みでは、特権ポリシーでは全ての制限を無効化してコントロールできるようにする必要があります。

ベースライン、デフォルト

ベースライン、デフォルトのプロファイルは一般的なコンテナ化されたランタイムに適用しやすく、かつ既知の特権昇格を防ぐことを意図しています。 このポリシーはクリティカルではないアプリケーションの運用者または開発者を対象にしています。 次の項目は強制、または無効化すべきです。

ベースラインポリシーの定義
項目 ポリシー
ホストのネームスペース ホストのネームスペースの共有は無効化すべきです。

制限されるフィールド:
spec.hostNetwork
spec.hostPID
spec.hostIPC

認められる値: false
特権コンテナ 特権を持つPodはほとんどのセキュリティ機構を無効化できるので、禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.containers[*].securityContext.privileged
spec.initContainers[*].securityContext.privileged

認められる値: false, undefined/nil
ケーパビリティー デフォルトよりも多くのケーパビリティーを与えることは禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.containers[*].securityContext.capabilities.add
spec.initContainers[*].securityContext.capabilities.add

認められる値: 空 (または既知のリストに限定)
HostPathボリューム HostPathボリュームは禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.volumes[*].hostPath

認められる値: undefined/nil
ホストのポート HostPortは禁止するか、最小限の既知のリストに限定すべきです。

制限されるフィールド:
spec.containers[*].ports[*].hostPort
spec.initContainers[*].ports[*].hostPort

認められる値: 0, undefined (または既知のリストに限定)
AppArmor (任意) サポートされるホストでは、AppArmorの'runtime/default'プロファイルがデフォルトで適用されます。デフォルトのポリシーはポリシーの上書きや無効化を防ぎ、許可されたポリシーのセットを上書きできないよう制限すべきです。

制限されるフィールド:
metadata.annotations['container.apparmor.security.beta.kubernetes.io/*']

認められる値: 'runtime/default', undefined
SELinux (任意) SELinuxのオプションをカスタムで設定することは禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.securityContext.seLinuxOptions
spec.containers[*].securityContext.seLinuxOptions
spec.initContainers[*].securityContext.seLinuxOptions

認められる値: undefined/nil
/procマウントタイプ 攻撃対象を縮小するため/procのマスクを設定し、必須とすべきです。

制限されるフィールド:
spec.containers[*].securityContext.procMount
spec.initContainers[*].securityContext.procMount

認められる値: undefined/nil, 'Default'
Sysctl Sysctlはセキュリティ機構を無効化したり、ホストの全てのコンテナに影響を与えたりすることが可能なので、「安全」なサブネットを除いては禁止すべきです。 コンテナまたはPodの中にsysctlがありネームスペースが分離されていて、同じノードの別のPodやプロセスから分離されている場合はsysctlは安全だと考えられます。

制限されるフィールド:
spec.securityContext.sysctls

認められる値:
kernel.shm_rmid_forced
net.ipv4.ip_local_port_range
net.ipv4.tcp_syncookies
net.ipv4.ping_group_range
undefined/空文字列

制限

制限ポリシーはいくらかの互換性を犠牲にして、Podを強化するためのベストプラクティスを強制することを意図しています。 セキュリティ上クリティカルなアプリケーションの運用者や開発者、また信頼度の低いユーザーも対象にしています。 下記の項目を強制、無効化すべきです。

制限ポリシーの定義
項目 ポリシー
デフォルトプロファイルにある項目全て
Volumeタイプ HostPathボリュームの制限に加え、制限プロファイルではコアでない種類のボリュームの利用をPersistentVolumeにより定義されたものに限定します。

制限されるフィールド:
spec.volumes[*].hostPath
spec.volumes[*].gcePersistentDisk
spec.volumes[*].awsElasticBlockStore
spec.volumes[*].gitRepo
spec.volumes[*].nfs
spec.volumes[*].iscsi
spec.volumes[*].glusterfs
spec.volumes[*].rbd
spec.volumes[*].flexVolume
spec.volumes[*].cinder
spec.volumes[*].cephFS
spec.volumes[*].flocker
spec.volumes[*].fc
spec.volumes[*].azureFile
spec.volumes[*].vsphereVolume
spec.volumes[*].quobyte
spec.volumes[*].azureDisk
spec.volumes[*].portworxVolume
spec.volumes[*].scaleIO
spec.volumes[*].storageos
spec.volumes[*].csi

認められる値: undefined/nil
特権昇格 特権昇格(ファイルモードのset-user-IDまたはset-group-IDのような方法による)は禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.containers[*].securityContext.allowPrivilegeEscalation
spec.initContainers[*].securityContext.allowPrivilegeEscalation

認められる値: false
root以外での実行 コンテナはroot以外のユーザーで実行する必要があります。

制限されるフィールド:
spec.securityContext.runAsNonRoot
spec.containers[*].securityContext.runAsNonRoot
spec.initContainers[*].securityContext.runAsNonRoot

認められる値: true
root以外のグループ (任意) コンテナをrootのプライマリまたは補助GIDで実行することを禁止すべきです。

制限されるフィールド:
spec.securityContext.runAsGroup
spec.securityContext.supplementalGroups[*]
spec.securityContext.fsGroup
spec.containers[*].securityContext.runAsGroup
spec.initContainers[*].securityContext.runAsGroup

認められる値:
0以外
undefined / nil (`*.runAsGroup`を除く)
Seccomp SeccompのRuntimeDefaultを必須とする、または特定の追加プロファイルを許可することが必要です。

制限されるフィールド:
spec.securityContext.seccompProfile.type
spec.containers[*].securityContext.seccompProfile
spec.initContainers[*].securityContext.seccompProfile

認められる値:
'runtime/default'
undefined / nil

ポリシーの実例

ポリシーの定義とポリシーの実装を切り離すことによって、ポリシーを強制する機構とは独立して、汎用的な理解や複数のクラスターにわたる共通言語とすることができます。

機構が成熟してきたら、ポリシーごとに下記に定義されます。それぞれのポリシーを強制する方法についてはここでは定義しません。

PodSecurityPolicy

FAQ

特権とデフォルトの間のプロファイルがないのはどうしてですか?

ここで定義されている3つのプロファイルは最も安全(制限)から最も安全ではない(特権)まで、直線的に段階が設定されており、幅広いワークロードをカバーしています。 ベースラインを超える特権が必要な場合、その多くはアプリケーションに特化しているため、その限られた要求に対して標準的なプロファイルを提供することはできません。 これは、このような場合に必ず特権プロファイルを使用すべきだという意味ではなく、場合に応じてポリシーを定義する必要があります。

将来、他のプロファイルの必要性が明らかになった場合、SIG Authはこの方針について再考する可能性があります。

セキュリティポリシーとセキュリティコンテキストの違いは何ですか?

Security Contextは実行時のコンテナやPodを設定するものです。 Security ContextはPodのマニフェストの中でPodやコンテナの仕様の一部として定義され、コンテナランタイムへ渡されるパラメータを示します。

セキュリティポリシーはコントロールプレーンの機構で、Security Contextとそれ以外も含め、特定の設定を強制するものです。 2020年2月時点では、ネイティブにサポートされているポリシー強制の機構はPod Security Policyです。これはクラスター全体にわたってセキュリティポリシーを中央集権的に強制するものです。 セキュリティポリシーを強制する他の手段もKubernetesのエコシステムでは開発が進められています。例えばOPA Gatekeeperがあります。

WindowsのPodにはどのプロファイルを適用すればよいですか?

Kubernetesでは、Linuxベースのワークロードと比べてWindowsの使用は制限や差異があります。 特に、PodのSecurityContextフィールドはWindows環境では効果がありません。 したがって、現段階では標準化されたセキュリティポリシーは存在しません。

サンドボックス化されたPodはどのように扱えばよいでしょうか?

現在のところ、Podがサンドボックス化されていると見なされるかどうかを制御できるAPI標準はありません。 サンドボックス化されたPodはサンドボックス化されたランタイム(例えばgVisorやKata Containers)の使用により特定することは可能ですが、サンドボックス化されたランタイムの標準的な定義は存在しません。

サンドボックス化されたランタイムに対して必要な保護は、それ以外に対するものとは異なります。 例えば、ワークロードがその基になるカーネルと分離されている場合、特権を制限する必要性は小さくなります。 これにより、強い権限を必要とするワークロードが隔離された状態を維持できます。

加えて、サンドボックス化されたワークロードの保護はサンドボックス化の実装に強く依存します。 したがって、全てのサンドボックス化されたワークロードに推奨される単一のポリシーは存在しません。

2 - クラウドネイティブセキュリティの概要

この概要では、クラウドネイティブセキュリティにおけるKubernetesのセキュリティを考えるためのモデルを定義します。

クラウドネイティブセキュリティの4C

セキュリティは階層で考えることができます。クラウドネイティブの4Cは、クラウド、クラスター、コンテナ、そしてコードです。

クラウドネイティブセキュリティの4C

クラウドネイティブセキュリティモデルの各レイヤーは次の最も外側のレイヤー上に構築します。コードレイヤーは、強固な基盤(クラウド、クラスター、コンテナ)セキュリティレイヤーから恩恵を受けます。コードレベルのセキュリティに対応しても基盤レイヤーが低い水準のセキュリティでは守ることができません。

クラウド

いろいろな意味でも、クラウド(または同じ場所に設置されたサーバー、企業のデータセンター)はKubernetesクラスターのトラステッド・コンピューティング・ベースです。クラウドレイヤーが脆弱な(または脆弱な方法で構成されている)場合、この基盤の上に構築されたコンポーネントが安全であるという保証はありません。各クラウドプロバイダーは、それぞれの環境でワークロードを安全に実行させるためのセキュリティの推奨事項を作成しています。

クラウドプロバイダーのセキュリティ

Kubernetesクラスターを所有しているハードウェアや様々なクラウドプロバイダー上で実行している場合、セキュリティのベストプラクティスに関するドキュメントを参考にしてください。ここでは人気のあるクラウドプロバイダーのセキュリティドキュメントの一部のリンクを紹介します。

Cloud provider security
IaaSプロバイダー リンク
Alibaba Cloud https://www.alibabacloud.com/trust-center
Amazon Web Services https://aws.amazon.com/security/
Google Cloud Platform https://cloud.google.com/security/
IBM Cloud https://www.ibm.com/cloud/security
Microsoft Azure https://docs.microsoft.com/en-us/azure/security/azure-security
VMWare VSphere https://www.vmware.com/security/hardening-guides.html

インフラのセキュリティ

Kubernetesクラスターのインフラを保護するための提案です。

Infrastructure security
Kubernetesインフラに関する懸念事項 推奨事項
API Server(コントロールプレーン)へのネットワークアクセス Kubernetesコントロールプレーンへのすべてのアクセスは、インターネット上での一般公開は許されず、クラスター管理に必要なIPアドレスに制限するネットワークアクセス制御リストによって制御されます。
Nodeへのネットワークアクセス Nodeはコントロールプレーンの特定ポート のみ 接続(ネットワークアクセス制御リストを介して)を受け入れるよう設定し、NodePortとLoadBalancerタイプのKubernetesのServiceに関する接続を受け入れるよう設定する必要があります。可能であれば、それらのNodeはパブリックなインターネットに完全公開しないでください。
KubernetesからのクラウドプロバイダーAPIへのアクセス 各クラウドプロバイダーはKubernetesコントロールプレーンとNodeに異なる権限を与える必要があります。最小権限の原則に従い、管理に必要なリソースに対してクラウドプロバイダーへのアクセスをクラスターに提供するのが最善です。KopsドキュメントにはIAMのポリシーとロールについての情報が記載されています。
etcdへのアクセス etcd(Kubernetesのデータストア)へのアクセスはコントロールプレーンのみに制限すべきです。設定によっては、TLS経由でetcdを利用する必要があります。詳細な情報はetcdドキュメントを参照してください。
etcdの暗号化 可能な限り、保存時に全ドライブを暗号化することは良いプラクティスですが、etcdはクラスター全体(Secretを含む)の状態を保持しているため、そのディスクは特に暗号化する必要があります。

クラスター

Kubernetesを保護する為には2つの懸念事項があります。

  • 設定可能なクラスターコンポーネントの保護
  • クラスターで実行されるアプリケーションの保護

クラスターのコンポーネント

想定外または悪意のあるアクセスからクラスターを保護して適切なプラクティスを採用したい場合、クラスターの保護に関するアドバイスを読み従ってください。

クラスター内のコンポーネント(アプリケーション)

アプリケーションを対象にした攻撃に応じて、セキュリティの特定側面に焦点をあてたい場合があります。例:他のリソースとの連携で重要なサービス(サービスA)と、リソース枯渇攻撃に対して脆弱な別のワークロード(サービスB)が実行されている場合、サービスBのリソースを制限していないとサービスAが危険にさらされるリスクが高くなります。次の表はセキュリティの懸念事項とKubernetesで実行されるワークロードを保護するための推奨事項を示しています。

ワークロードセキュリティに関する懸念事項 推奨事項
RBAC認可(Kubernetes APIへのアクセス) https://kubernetes.io/ja/docs/reference/access-authn-authz/rbac/
認証 https://kubernetes.io/docs/concepts/security/controlling-access/
アプリケーションのSecret管理(およびetcdへの保存時に暗号化) https://kubernetes.io/ja/docs/concepts/configuration/secret/
https://kubernetes.io/docs/tasks/administer-cluster/encrypt-data/
PodSecurityPolicy https://kubernetes.io/docs/concepts/policy/pod-security-policy/
Quality of Service (およびクラスターリソース管理) https://kubernetes.io/ja/docs/tasks/configure-pod-container/quality-service-pod/
NetworkPolicy https://kubernetes.io/ja/docs/concepts/services-networking/network-policies/
Kubernetes IngressのTLS https://kubernetes.io/ja/docs/concepts/services-networking/ingress/#tls

コンテナ

コンテナセキュリティは本ガイドの範囲外になります。このトピックを検索するために一般的な推奨事項とリンクを以下に示します。

コンテナに関する懸念事項 推奨事項
コンテナの脆弱性スキャンとOS依存のセキュリティ イメージをビルドする手順の一部として、既知の脆弱性がないかコンテナをスキャンする必要があります。
イメージの署名と実施 コンテナイメージを署名し、コンテナの中身に関する信頼性を維持します。
特権ユーザーを許可しない コンテナの構成時に、コンテナの目的を実行するために必要最低限なOS特権を持ったユーザーをコンテナ内部に作成する方法のドキュメントを参考にしてください。

コード

アプリケーションコードは、あなたが最も制御できる主要な攻撃対象のひとつです。アプリケーションコードを保護することはKubernetesのセキュリティトピックの範囲外ですが、アプリケーションコードを保護するための推奨事項を以下に示します。

コードセキュリティ

Code security
コードに関する懸念事項 推奨事項
TLS経由のアクセスのみ コードがTCP通信を必要とする場合は、事前にクライアントとのTLSハンドシェイクを実行してください。 いくつかの例外を除いて、全ての通信を暗号化してください。さらに一歩すすめて、サービス間のネットワークトラフィックを暗号化することはよい考えです。これは、サービスを特定した2つの証明書で通信の両端を検証する相互認証、またはmTLSして知られているプロセスを通じて実行できます。
通信ポートの範囲制限 この推奨事項は一目瞭然かもしれませんが、可能なかぎり、通信とメトリクス収集に必要不可欠なサービスのポートのみを公開します。
サードパティに依存するセキュリティ 既知の脆弱性についてアプリケーションのサードパーティ製ライブラリーを定期的にスキャンすることを推奨します。それぞれの言語は自動でこのチェックを実行するツールを持っています。
静的コード解析 ほとんどの言語ではコードのスニペットを解析して、安全でない可能性のあるコーディングを分析する方法が提供しています。可能な限り、コードベースでスキャンして、よく起こるセキュリティエラーを検出できる自動ツールを使用してチェックを実行すべきです。一部のツールはここで紹介されています。 https://owasp.org/www-community/Source_Code_Analysis_Tools
動的プロービング攻撃 よく知られているいくつかのサービス攻撃をサービスに対して試すことができる自動ツールがいくつかあります。これにはSQLインジェクション、CSRF、そしてXSSが含まれます。よく知られている動的解析ツールはOWASP Zed Attack proxytoolです。

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